ショコラ SideStory

『ショコラ』の二階にある『松川塾』は小中学生対象の塾で、コンセプトは【勉強嫌いな子のための塾】だ。

メイン目的は成績を上げることではなく、学習に興味を持たせること。

それが宗司さんのもっている基本理念であり、あくまでも教科書の内容を理解させ、学校にいくのを楽しくさせることを重要視している。

 時には、学校でやっている勉強はどんな風に生活で役に立つかとか、自分のなりたい職業につくためにどんな能力を鍛えなきゃならないかとか、そういう話もしているようだ。

 当然、進学目的の子はあまり来ず、そういうのを求めている保護者からは毛嫌いされている。

逆に学校で勉強が遅れ気味の子は、保護者のほうが真剣に相談に来ることも多いみたいだった。

慣れるまではと、上の塾が終わるまでの間、心配そうな顔で『ショコラ』で時間を潰している親御さんも結構いる。



 その日、塾の終了時間になっても宗司さんは降りて来なかった。

母さんが職場の付き合いで遅くなるって言うから、親父には勝手にご飯を食べてもらうことにして、一緒にご飯を食べる約束をしていたのに。

 あたしは不貞腐れたまま、『ショコラ』の窓際の席で外の景色を眺める。
宗司さんが降りてくるのを心待ちにしつつ。


「詩子、なんか食えばどうだ。余りもんでなんか作ってやろうか」

「いらないわよ。これから食べに行くって言ってるでしょ。過保護にしないで」


心配そうに覗いてくる親父がウザいんですけど。

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