ショコラ SideStory

ただ挨拶して帰るのかと思ったら、そのお母さんの話は長そうだ。
やたらに宗司さんの腕を触りながら、子どもと彼に交互に顔を向ける。

なんなの? ベタベタし過ぎじゃないですか?


 やがてお母さんは頭を下げて、娘さんの手を引きながら歩いて行く。
それを見送った宗司さんは、大きくため息をついて『ショコラ』に入ってきた。


「ゴメン、詩子さん。待たせて」

「ホントよ、待ったわー。なあに? 新しい生徒さん?」

「うん。まだ入ってはいないんだけど、見学に来て。……小学生の授業を見て欲しかったんだけどね、お母さんの都合で中学生のを見に来てた」

「なにそれ」

「ちょっと前から知り合いの人で。うーん。……まあいろいろ。難しいよね」


頭をかく宗司さんがとても困ってるみたいに見えたから、あたしはそれ以上追求するのは辞めた。
困ったらそっちから話してくれるだろうと思ったし。


「それより、片付けも終わった? あたしもうお腹ペコペコ」

「あ、そうだね。鍵だけ締めてくるよ。明日早く来て片付けるから」

「うん」


トンボ返りに駆け出していく宗司さんを見送り、調子の上がってきたあたしは場所をカウンターに移す。


「というわけで、父さん、今日は遅くなるから」

「ああ。……でも、アイツ大丈夫か?」


親父は茶碗を拭きながら、神妙な顔で宗司さんが消えていった入り口を見ている。
なんとなくイヤな予感が胸をかすめたけれど、あたしは敢えてそれ以上考えなかった。

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