ショコラ SideStory
「……あたしのプロポーズに、返事をくれるの?」
「詩子さん。俺と結婚して下さい。一生一緒にいて欲しいんだ」
思った以上に、その言葉は胸に響く。
仕事場の厨房で、相手もあたしもクリームでベタベタに汚れてる。
雰囲気も良くなけりゃ特別詩的な言葉ってわけでもないのに、涙が出そうになるほど嬉しい。
あたしは、ゆっくりと頷いて、鞄から作ったばかりのアイシングクッキーを取り出す。
「こんな時、男の人は指輪を贈ったりするわよね。あたしは、……あなたにこれをあげる。あなたを元気にしたくて作ったクッキー。……あたしは、あなたと……」
最後まで言えない内に、宗司さんに抱きしめられた。
うわあ、彼の肩についていたクリームが顔についたし。
しかも苦しいって。
胸の前で持ってるクッキーも割れるっつの。
全く、宗司さんって格好つかないんだから。
それなのに、どうして笑っちゃうくらい幸せな気持ちになるんだろ。
「……親の前でいちゃつくな。阿呆ども」
低い声に、あたしたちは反射的に体を離した。
口を引くつかせて、怒りを何とかこらえているのは親父だ。
「詩子が先にプロポーズしたってのは本当なのか?」
嫌そうに見つめられたけど、宗司さんが受け入れてくれるならあたしはなんにも怖くない。