ショコラ SideStory


「……あたしのプロポーズに、返事をくれるの?」

「詩子さん。俺と結婚して下さい。一生一緒にいて欲しいんだ」


思った以上に、その言葉は胸に響く。

仕事場の厨房で、相手もあたしもクリームでベタベタに汚れてる。

雰囲気も良くなけりゃ特別詩的な言葉ってわけでもないのに、涙が出そうになるほど嬉しい。


あたしは、ゆっくりと頷いて、鞄から作ったばかりのアイシングクッキーを取り出す。


「こんな時、男の人は指輪を贈ったりするわよね。あたしは、……あなたにこれをあげる。あなたを元気にしたくて作ったクッキー。……あたしは、あなたと……」


最後まで言えない内に、宗司さんに抱きしめられた。

うわあ、彼の肩についていたクリームが顔についたし。

しかも苦しいって。
胸の前で持ってるクッキーも割れるっつの。

全く、宗司さんって格好つかないんだから。

それなのに、どうして笑っちゃうくらい幸せな気持ちになるんだろ。



「……親の前でいちゃつくな。阿呆ども」


低い声に、あたしたちは反射的に体を離した。
口を引くつかせて、怒りを何とかこらえているのは親父だ。


「詩子が先にプロポーズしたってのは本当なのか?」


嫌そうに見つめられたけど、宗司さんが受け入れてくれるならあたしはなんにも怖くない。

< 291 / 432 >

この作品をシェア

pagetop