ショコラ SideStory
「また根拠の無いことを……」
ため息ととも頭を振った親父は、やがて途方にくれたように呟いた。
「……やっぱり康子さんの血かなぁ」
親父の大好きな母さん。
そうね、母さんも同じ状況だったらこうするかもね。
難しいこと考えてるより、まずは動き出さなくちゃ何にも始まらないわ。
「わかった。勝手にしろ」
「いいの?」
「人のことは言えない。俺だって無計画に康子さんと結婚した。……彼女を幸せにしたかはわからんが、俺は幸せだったさ。だから、反対する資格がない」
「……父さん」
「マスター」
宗司さんが感極まったような声を出す。
そしてベタベタの手で、親父の手をぎゅっと握りしめた。
「俺っ、頑張りますから。絶対、絶対詩子さんを幸せにしますからっ」
何感動してんのよ。
パチパチという音に後ろを振り返ると、マサまでが目をうるませて拍手をしている。
あんたら、どうしてそんなに親父に甘いの。
あたしは親父の手から宗司さんの計画書とやらを奪い取る。
うわー。グラフとかまで書いてある。
細かいなー。よく一晩でこんなの作るな。
「だから、よろしくお願いします。お義父さん」
最後に放った宗司さんの一言は爆弾だったらしい。
「誰がお前の父親だー、アホー! 気が早過ぎる」
せっかく鎮火したのにまた発火しちゃったじゃないのよ。
全く困ったもんだわ。
再び一悶着始まった二人は放っておいて、あたしはクリームだらけになった厨房の掃除に入った。