ショコラ SideStory
「ま、お前はそのマイペースなところがいいとこだよな。年末は俺も康子さんも忙しいから、正月に来い。正月は家族で過ごすもんだ。……頼むぞ、詩子のこと」
「父さんも、母さんのことよろしく頼むね」
あんな意地っ張りな人を理解できる人なんてそうそういないわ、きっと。
「任せとけ。一度失敗してるからな。二度はしない」
「うん」
「康子さんは変なとこ不器用なんだよ。でも、お前たちのこと心配してるのは間違いないから」
「わかってる。でももう少し信用してもらいたいもんだわ」
「信用してもらえるように頑張ります」
あたしと宗司さんも対極的。
きっと模範解答は宗司さんの方ね。
でも、あたしは娘だもの。このくらいでちょうどいいわ。
「じゃあ、あたしたち帰るね」
「おう。気をつけて帰れよ」
親父は相変わらず心配性だなぁ。
そして、あたしはそれに慣れすぎていたのかな。
母さんみたいな愛情には、気づけない。
一緒に歩く帰り道。
月が、建物の合間から見える。
「すっかり遅くなっちゃったね」
「うん。でも平気よ」
遅い夕食を駅前で済ませて、アパートに一緒に戻る。
チラリと管理人さんに見られて焦ったけれど、その場では何も言われなかった。
部屋に入って順番にシャワーを浴びて、ようやくひとごこちをつく。
「詩子さん、ビール飲む?」
「んー。もう遅いからいいわ。太っちゃう」
「少し太ってもいいのに」
宗司さんは出しかけたビールを冷蔵庫に戻して、あたしの隣へやって来た。
「じゃあ、キスしてもいい?」
「……なあに? どうしたの」
「マスターと康子さんにあてられたかな」
「色ボケ夫婦だものね」
そういいつつ、あたしも素直に目を閉じる。
ゆっくり触れられる宗司さんの唇が暖かい。
あたしにはとても心地よい温度で、もっともっと欲しいと思ってしまう。
「……電気消してよ」
その気が無かったとは言わせないわよ。
あなたのキスは充分に情熱的だったんだから。