ショコラ SideStory
「詩子、アンタは?」
「え?」
「アンタはこの一ヶ月、何を考えてきたの。宗司くんはこれだけ成果を出したわよ。アンタだって、ただ宗司くんの背中におんぶされてた訳じゃないでしょ?」
「それは……」
や、半月以上は何も考えてこなかったけど。
でも、宗司さんの実家に行ってからは考えたわ。
店のことは、経営者が親父な以上、あたしからどうこうできることはない。
あたしがしなきゃいけないのは、宗司さんとの結婚がただの勢いなだけじゃないことを母さんに納得させること。
どうやったらそれができるのか、考えて考えて答えを出した。
あたしのお手本はやっぱり親父しかいないから、親父がケーキで伝えるようにあたしはクッキーで伝える。
「これを作ってきた」
屋根も四方の壁もクッキーで出来た、お菓子の家。
中にはマジパンの人形も入っている。
屋根にはチョコレートをあしらい、壁はアイシングで飾り付けた。
何度も何度も失敗した壁の模様は、メゲそうになるたび宗司さんが励ましてくれた。
「……あたし、幸せな家庭ってよく分からなかった。あたしは不幸ではないけれど、母さんも父さんも仕事は忙しくて小さい時はほったらかされてたし、挙句離婚とかするし、店の手伝いに忙しくって遊ぶ暇もなくて。正直結婚願望どころか男の人に興味さえ沸かなかったわ」
「あら勿体無いわね。それだけの器量あるのに」
冷静に母さんが呟く。それだけの器量って……あたしはあなたにそっくりなんですが。
「でもね、宗司さんに出会ってからちょっと変わったの。自分の個性を、人に認めてもらえるって凄く嬉しい事だし、受け入れてもらって初めて自由になれるものだったんだって思った。昔は想像さえ出来なかった幸せな家庭像も、今なら描ける」
お菓子の家の繰り抜き窓から、男の子と女の子の人形を見せる。
二人が手をつないで、微笑み合ってる、そんな構図。