ショコラ SideStory
「詩子」
「はいっ」
鋭い声で名前を呼ばれて、背筋がピンと伸びた。
「お金では苦労するわよ、きっと。自分で頑張りなさいよ。私達は手助けなんてしないからね」
「はぁい」
「返事はハイよ」
「学校の先生みたい」
そう言うとようやく母さんは頬を緩ませた。
親父が、母さんの肩を支えにしながら立ち上がる。
「さあ、じゃあ話はここまでだ。おせちでも食え。この俺が作ったんだからな」
お重を持っていそいそとやってくる親父。
だけど開けてびっくり。なんなの、この洋食オンパレードは。
「パスタとか入ってるけど」
「おう。イカスミで炒めてみた。後これがな、栗きんとんのパイだ。デザートにいいぞ」
「なんてもの作ってるのよ。おせちなら和食にしなよ」
「創作料理だよ。なんだ、お前たちが来ると思って張り切って作ったのに」
いらん、その張り切り。
「いただこうよ、詩子さん。美味しそうだ」
親父を手伝って、いそいそとお茶を入れ始める宗司さん。
ほら、もう。
あなたのその口調に、あたしの苛立ちは直ぐに吹き飛ばされてしまうから。
「……わかったわよ」
だからいつもあなたといると、世界が優しく見えてくる。
【Fin. 】