ショコラ SideStory
一月の半ば、あたしはボストンバックを持って実家に戻ってきている。
と言っても、喧嘩をしたわけじゃない。最も、喧嘩しただけのほうが状況的には楽だったかも知れないけど。
先日の夜、二人で部屋でくつろいでいる時に、大家さんがやってきた。
「前々から気になっていたんだけど」と口火を切り、最終的に「二人で住むなら他所に行ってもらえないか」と言われてしまったのだ。
結婚したいとは言っているものの、具体的な計画はたっていないあたしたち。
今の状態ですぐに引っ越しする余裕などあるはずがなく、両親の了解ももらえたわけだから、落ち着いて結婚までの計画を立てましょうと、私が実家に戻ることにした。
しばらくは、お泊りに行くのも控えなきゃいけないだろう。
正月早々ついてないったらないわ。
帰ってきたあたしを、迎えてくれたのは誰も居ない家。
相変わらず皆忙しいのね、とため息をつきつつ夕飯の用意をしていたら、母さんが帰ってきて目を丸くする。
「あら、出戻ってきたの」
「不本意ながらね、父さんから聞いてない?」
「聞いたわ。詩子が帰ってくるぞって喜んでた。でも今日来るとは思っていなかったのよ。……宗司くんのアパートって、単身用なんですって?」
「そう。二人で住むならでてけって」
「まああっちも商売だからねぇ。それにしても美味しそう。やっぱり詩子が居ると楽でいいわね」
母さんの関心はポトフの方にありそうだ。
先程からグツグツ煮ていたそれをお皿に取り分けて、一緒に食べることにした。