ショコラ SideStory

「明後日の夜、森宮さんが詳しい話をしに来るから、それまでにいくつかサンプルを作っておいて欲しいんだ。難しければ図案だけでもいいが、物があったほうが話がしやすいからな」

「分かったわ。じゃあ明日、仕事終わりに厨房かしてよ」

「おう」


自然に身震いしてしまうのは武者震いってやつかな。
ほぼ親父のツテとはいえ、あたしメインの仕事でしかも結婚式。ここで頑張らなきゃ女がすたるってものだわ。


「早速幾つか考えてみる」


宣言して階段を駆け上がり、部屋に入って鞄からオレンジ色の表紙のノートを取り出した。

アイシングクッキーを担当するようになってから、このノートに思いついた図案や、色味を書き込むことにしていた。実際に実現可能かどうかまでは考えていないアイデア集だけど、ここからヒントになるものを探せるだろう。

結婚式なら、華やかで幸せそうなものを作りたい。

昔は夢物語にしか思えなかったそれは、今やあたしにとってもそう遠くない未来のことだ。
自分の時のための勉強をさせてもらうつもりで頑張ろう。


片手でシャープペンシルを回しながら、もう一方の手でデザイン帳をめくっていく。

『ショコラ』のアイシングクッキーは、恋が叶うクッキーという眉唾ものの噂で宗司さんの学習塾で話題になったせいか、学生さんが多い。

だから今まで商品化したものは、どちらかと言えばファンシーなものや、男の子が貰っても恥ずかしくないようなシンプルなデザインが多い。
これらから結婚式は連想できないなぁ。



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