ショコラ SideStory


「既存のデザインじゃ無理ね。新しく考えないと」


やはり結婚式というからには人生最高の瞬間だし、幸せを連想させるものや華々しいものがいいよね。
頭に中に浮かんだのは、ハート、花、鳩、幸せそうな新郎新婦。

新郎新婦は絵の技術的に無理そうだから、それ以外の三つを試作してみようか。
結婚式だから、白がベースのアイシングに、ピンクと黄色を使って華やかにしよう。
お花は一つひとつ花びらを描くようにすればきっと目を引くはずだ。

ホクホクとノートに書いた図案に色鉛筆を塗りつけていく。

不器用だけど、色々デザインしたり表現したりするのは昔から大好きだ。親父もそれだけは認めてくれているのか、POPや店内の飾りは昔からあたしの担当だった。


すっかり集中していたところで、電話が鳴る。
今は二十二時、この時間にかけてくるような人は宗司さんくらいしかいない。
胸が高鳴るのを感じながら、あまり浮かれた調子ででるのもなんだな、と声を押さえて電話にでる。


「もしもし、宗司さん?」

『詩子さん、元気?』

「元気に決まってるでしょ。昼間も顔見たじゃないの」

『今、帰ってきたんだけど。久し振りに一人で、……なんだか寂しいよ』


電話越しの声を聞くのは、凄く久し振りな気がする。
甘えん坊さんみたいに拗ねた声出して、一体どんな顔しているのよ。


「……あたしもよ」


以前だったら、絶対こんな返事しなかったな。
甘ったれてんじゃないわよ、しっかりしなさい、くらいは言ったと思う。

でも今は、あたしにも分かる。
大好きで安心できる人が隣にいないと、なんだか凄く寂しくて心細い。
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