ショコラ SideStory
でも、甘い会話には副作用もある。
会いたい気持ちが増すほどに、寂しさが棘を持ち始める。
そうして心がチクチクになって、いちばん優しい人にあたってしまう。
だから、とあたしは敢えて会話を切り替えた。
楽しい話題をしていたほうが、元気なあたしでいられるもの。
「ところで聞いてよ。新しいお仕事がもらえたの。結婚式のプチギフトに、アイシングクッキーを使ってくれるんですって」
「へぇ、凄いね」
「宗司さん知ってるかな。親父の知り合いの香坂さんって。二月に結婚式するんだって」
「香坂さん……? いや、知らないかも」
「相手の方は、母さんの職場の同僚なんだって。そのツテでうちに頼んでくれたみたい」
「どんなのを作るの?」
「それを今考えているのよ。まあ聞いて」
そこから三十分以上、あたしはデザインの説明をし続けた。
電話だから、形や色味を色々な言葉で表現しなきゃならなくて、少しもどかしい。
隣にいてくれたら、見せるだけで済むのになって思いつつ、きっとちんぷんかんぷんだろうなっていう説明に黙って耳を傾けてくれることが、あたしの心を温めていく。
「気に入ってもらえるといいね」
最後のその一言で、あたしはすっかり満足した気持ちになって、名残惜しく電話越しのキスをかわして、あたしは電話を切った。