ショコラ SideStory


 そして、二日後。打ち合わせは営業時間終了後ということにしていたので、あたしはいつも上がる時間を過ぎても残っていた。

二十一時を少し過ぎたころ、息を切らせて森宮さんが店内に駆け込んでくる。


「どうもすみません、遅くなって」


約束していた時間を五分過ぎただけだ。
あたしも親父も特に気にしていなかったのに、彼女は平身低頭の構えを見せる。


「森宮さん、頭を上げて下さい。大丈夫ですよ。香坂さんもまだ来てませんし」


親父がとりなすように言って、ようやく頭を上げてくれる。
ダークブラウンの髪を後ろで結い上げた、清潔感のある美人という印象の森宮さんは、時間にもきっかりしているらしい。


「香坂さんは遅れると思ったので、私だけでも間に合わせたいって思って」


はあはあ息を切らしながら、そういう彼女に椅子を勧め、珈琲を出す。


「わあ、いい香り」


顔をほころばせた森宮さんに、親父は優しく笑いかけ、さり気なさを装おって尋ねた。


「康子さんはまだ仕事してる?」

「はい。今日は私が先に上がらせてもらいました。いつも康子さんにはお世話になりっぱなしです」

「そんなことないよ。康子さんだって森宮さんには助けられてるってよく言ってる」


社交辞令にも似たその会話を、あたしは黙って聞いていた。
というか、作った試作品に対してどんな評価が付けられるのかが気になって、落ち着いて会話に加われない。

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