ショコラ SideStory
「そもそもお前はどう考えているんだよ。ここはお前の店だろう。そして詩子ちゃんは一人娘だ。彼女を跡継ぎにと考えるなら、できるできないじゃなくて彼女にお前のノウハウを教え込むべきなんじゃないのか」
その言葉に息を飲んだのはあたしの方。
確かに、この店を維持することを考えれば、親父の跡を継ぐ人間を育成する必要がある。
でも親父は、これまで頑なにあたしにはケーキを作らせなかった。
マサだって、ケーキを作らせてもらえるまでには一年くらいかかったほどだからと受け入れていたけれど、よくよく考えれば、それはあたしを跡継ぎとは認めていないという宣言だとも言える。
親父は、『ショコラ』の味の水準を落とす気はないんだから。
ちらりと親父を見ると、気まずそうに目を伏せられた。あたしまで恥ずかしいような気分になって、香坂さんに視線を戻す。
「それをしないってことは、彼女に店を任す気がないんだろう? だったら、ほかの技術をつけさせてやるべきだ。アイシングは技術もそうだがアイデアだって大事だ。俺は、詩子ちゃんにはアイデアやセンスがあると思うよ。向いている。だとすれば専門家の元で修行させた方がぐっと上達する。ここで飼い殺しにするのは間違ってるって、思わないか」
「それは……」
親父が口ごもる。
私も、行く行かないは置いておいて、香坂さんの理論には納得できる。
あたしがこの道で生きていくつもりならば、今のような中途半端な技術ではいつか行き詰ってしまう。