ショコラ SideStory


 出来上がったケーキを冷蔵ケースに並べるマサとテーブルを拭く私。開店前だからと、離れた距離でも聞こえるような大声で話し合う。


「詩子、どうするんだ?」

「どうするって言われても……突然すぎて何が何だか」


マサに先ほどの話を一通り説明すると、そんな風に返された。
『ショコラ』の話として考えれば、マサだって無関係じゃない。
店の経営については置いておいても、ケーキ作りに関して親父が跡を継がせたいのは、間違いなくあたしじゃなくてマサの方なんだもの。


「『ショコラ』はマスターの店だ。娘なんだから跡を継ぐのは詩子だって思ってるよ、俺」


でもその場合、マサにはいつでも店を辞める自由がある。今は独身で、調理学校からの仲間だから、屈託なくやれているけど、お互い結婚とかしたら、あたしとマサの関係って結構複雑なものじゃないかと思う。

あたしが経営権だけ持っていても仕方ないんじゃない? なんて思ってしまうんだけど。


「マサは、自分の店持ちたいって思わないの?」


あたしの問いかけに、マサは黙ったまましばらく考え込んだ。


「……今は正直、マスターから技術を教わりたいってだけかな。先のことまでは考えていない」


マサがここにいるのは、親父がいるから、でしょう?
いつか親父が引退してあたしがオーナーになったとすれば、マサにはここにいる価値が一つもない。

今までなあなあで流してきてしまったけれど、やっぱり、あたしたちは何らかの結論を出す時期に来ているのかもしれない。
あたしとマサが結婚できる間柄なら簡単な話だったのかもしれないけど、現実問題お互い相手が別にいるんだもの。


「あたしは、……『ショコラ』のケーキの味を継げるのはマサだけだって思ってる」


そうしたら、マサは嬉しいと困ったの中間みたいな顔をした。


「……何言ってんだよ」

「だって本当だもの。あたしには、あれは作れないわ」


だからこそ。あたしはやっぱり、あたしの生きる道をちゃんと考えなきゃいけないんだろう。


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