ショコラ SideStory
「この話を聞いたとき、俺はいい話だと思ったけれど、とっさに『ダメだ』と言ってしまった。……宗司は言わなかったんだろう? あいつはすごいな。自分の気持ちより、お前の未来を優先したんだ」
彼の名前を聞いて、あたしの涙腺が急に緩んでいく。
「……でも、あたしたち、結婚しようって言ってたのに。宗司さん全く平気な顔だった」
「そこは本人にちゃんと聞いてみろ。あいつがショックを受けてないわけじゃないぞ」
あたしの前では、そんなそぶりは見せてなかったわよ?
瞳で問いかけると、親父はくしゃりと笑って見せる。
「……家に来たときはオタオタで真っ青になってたぞ。俺は詩子が死んだのかと思って焦ったくらいだ」
「そんなわけ、……ないでしょ」
「どうかな。お前に出ていかれたことは、あいつにとっては同じくらいの衝撃だったんじゃないのか」
「……そんなこと」
「あるだろ。俺もずいぶんと執着心の強い男だけどな、あいつはそれ以上だと思うぞ? だからこそ、逃げずに話を聞いてやれよ」
「でも」
頑ななあたしを叱りつけるみたいに、急に親父の声が固くなる。
「それができないならあいつと別れろ。意地しか張れない付き合いならどこかで必ず破局するよ。俺たちみたいに」
「あたしと宗司さんは違うわよ」
思わず言い返して、でも自分の現状に口ごもる。
今あたしがここにいるのはなんでなのよ。意地を張って、寂しいって言えなくて飛び出してきたんじゃないか。
こんなことを続けていたら、行きつくところは決まってしまう。
「少なくとも、……宗司さんは違うわ」
「だよな。だったら、詩子次第ってことだろ」