ショコラ SideStory
余裕の笑みを見せる親父。
悔しいったらないわ。自分たちは意地張り続けて離婚までしたくせに。
でもだからこそ、親父の言葉には重みがある。
あたしは、間違いたくない。
後悔するような生き方はしたくない。
「……行ってくる」
「おう。気を付けて行けよ」
親父の言葉に押されるようにして、あたしは歩き出した。
一歩進むたびに、次の足が焦りから前に出る。いつしか、全速力の駆け足になっていた。
やがて見えてくる『ショコラ』の明かり。
ブラインドをおろしているけれど、中の動きは影となってうっすら見える。
人影が、うろうろ歩いては立ち止まる。かと思ったらまた歩き出す。
立ち止まって息を整えている間、あたしはずっとその影を見ていた。
肩を落とした姿は、いつもの宗司さん。でもすぐに顔を上げて歩き出す。
ブラインド越しでは表情は分からないのに、頭の中に姿が浮かんだ。
最初に出会ったころ、あなたはよく叱られてはそんな風に頭を下げていたよね。
穏やかに静かに落ち込んで、肩を落としたまま、あたしはそれに苛ついて、よく発破をかけたものだった。
でも今は、自分で顔を上げれるんだよね。
小学校の先生になる夢が叶わなくて、でも方向性を変えることで違う道を探し出そうとしたように。
ただ落ち込んでいるだけじゃなくて、その先を見て考えている。
それはあなたが、前より大人になった証拠だ。
じゃあ、あたしは……?
あたしだっていつまでも、子供のままじゃいられないじゃない。