ショコラ SideStory
それを見て、宗司さんが急に肩を落とした。
「……ごめん、痛かった?」
「ううん。大したことない」
痛いのは、心の方よ。
宗司さんを信じきれなかった、自分の事。
「俺は離れたって気持ちが変わらないし、電話もメールもするしできるだけ会いにも行く。だから、詩子さんが後悔しないように進んでほしいんだ」
彼にとっては、あたしを受け止めることなんてもう前提条件だったんだ。
それに安心して、ポロリと本音を漏らす。
「……あたし、自信が欲しいの」
「うん」
「今のままじゃ、あたし、『ショコラ』は継げない。親父みたいなケーキは、作れないんだもの。だからと言って、マサが一生ここで働いてくれるかもわからない。でももし一つでも、あたしが自信もって出せるものがあるなら、形を変えてここを維持できるかもしれない」
あたしが生きた『ショコラ』という場所。
楽しいことばかりじゃなかったし、むしろ最初のころは嫌で嫌で仕方なかった。
でも、毎日のように店に入って、お客さんと仲良くなったり、店のディスプレイを考えたり、そんなことを繰り返しているうちに、この店はもう、あたしの一部になってしまった。
「いつか、『ショコラ』を継ぐための……自分の武器が欲しいの」
そうだ。
あたしは『ショコラ』を継ぎたい。
今のままの形じゃなくてもいいからずっと残していきたい。無くしたくないんだ。