ショコラ SideStory
こぼれる涙をぬぐっていたら、頭の後ろをぐいと引っ張られた。
「宗司さ……」
最後まで言わせてもらえなかった。
紅茶の味がする宗司さんのキスは、優しく、あたしをなだめるように唇や頬を滑っていく。
ゆっくりと目を開けたら、ひどく優しいまなざしとぶつかった。いつもあたしを安心させてくれる、宗司さんの穏やかな表情。
「大丈夫」
言葉とともに背中が優しくなでられる。
「詩子さんが『ショコラ』をどれだけ大切にしているか、俺は出会った時から分かってるよ」
「宗司さん」
「正直、詩子さんモテるから、心配ではあるんだ。……でも、俺以上に詩子さんを知ってる人なんていないって自信ももうついてる」
宗司さんの手が目の高さまで上がり、言葉とともに指折り数えられていく。
「ラーメンが好きで、漬物が好きで、まっすぐでいつも勢いで動いてしまう。見た目のギャップがコンプレックスなのに、店では敢えて演じてる。甘いものは嫌いだけど、作るのはそんなに嫌いじゃない。思い付きで動いては、よく後悔したりしてる」
それはどれをとっても正解で、むしろそこまで言われると傷つくくらい。
あたしがむっとして見せると、宗司さんは楽しそうに笑った。
「そして、口では冷たいこと言いながらも、マスターのことが大好きだよね」
あーそれ、一番言われたくないかも。
でも図星だから、悔しくって顔を隠すように宗司さんに抱きついた。
「それ、親父に言ったら殺すわよ」
「はは」
「……笑い事じゃないわ」
もう。
見た目と違う中身をこれだけ知られていても、あたしを好きだと言ってくれるあなた以外と、今更恋なんてできるわけないじゃない。