ショコラ SideStory
「……宗司さんは安心していればいいわよ。あたしは、初恋が実るラッキーガールみたいだから」
「初恋だったんだ?」
「悔しいけどそういうことね」
ぎゅっと抱きしめ返してくれる宗司さんが、耳元で囁いた。
「俺、詩子さんが帰ってくるまでに、色々な事ちゃんとしておくから」
「うん。ごめんね、せっかくご挨拶までしてきたのに」
「大丈夫だよ。いつか結婚するのは変わらないだし」
「そうよね」
笑いあった、……はずだったのにあたしの目からは涙が零れ落ちる。
「あれ」
「泣かないでよ、詩子さん」
「おかしいな。止まらない」
ぬぐってもぬぐっても、涙は止まらず、目の前の宗司さんの困り顔がぼやけていく。
「泣かれると行くなって言っちゃいそう」
「嘘ばっかり」
「本当だよ、俺だって寂しいからね。……でも」
宗司さんはあたしの頭を引き寄せる。いつもより早い彼の心音が服を通して伝わってきた。
「この先ずっと一緒にいたいから。詩子さんにちゃんと自信を持ってほしい」
「……うん」
彼の背中に手を回して、しがみついた。
額や頬に落ちてくる唇を、とりこぼしたくなくて唇で奪いにいく。
言葉が少なくなる代わりに、増えていく呼吸音。
もどかしくなって、自分から彼のシャツのボタンに手をかける。
「……今日、帰りたくないんだけど」
「俺も」
「上、行かない?」
「……明日、一緒にマスターに怒られようか」
くすくす笑いながら、店の電気を消して、内階段から二階へ向かう。
親父に『今日は泊まります』とだけメールをして、電源ごと落としてしまう。