ショコラ SideStory
*
そしてあたしの決意は、親父を通して香坂さんに届けられた。
彼は自分の結婚式の準備も忙しいはずなのに、色々と手はずを整えてくれた。
香坂さんが言っていた人は、実は香坂さんのいとこにあたる人らしい。
名前は、坂本 雪音(さかもと ゆきね)さんという三十六歳の女性で、三年前から『Happy Colors』という名のアイシングクッキー専門店を開いているのだそう。最初はネット販売だけをしていて、軌道に乗って店を出したというから、相当人気があるのだろう。
「実は出産を控えていてさ。即戦力になる人間が欲しいって言ってるんだよ。急に店を休むことになっても対応してくれるような人に来てほしいって」
なんか、最初に言っていたのとちょっと違くない?って思ったりもする。
香坂さん、さてはちょっと担いだわね。
「じゃああたし、その人に一から教えてもらえるわけじゃないんですか」
「どんな仕事も一から丁寧になんて教えてもらえないよ。見て盗むのが職人の必定でしょう。大丈夫、彼女の技術はホントに凄いから。会得できるかどうかは詩子ちゃん次第だよ」
整った顔でにんまり笑われて、はじめてこの人が食えない人間なんだと気付いた。
ただのヘタレではなかったんだな、と親父が香坂さんをなんだかんだ尊敬していることに納得がいった。
まあいいわ。
あたしはこれまで、自分を甘やかし続けてしまった。
これは、その時間を取り返すチャンスだと思えばいい。
「よろしくお願いします」
大きく頭を下げて、気持ちを引き締めた。
これがあたしの生きる道だと、胸を張って言える未来を掴むために。
【Fin.】
そしてあたしの決意は、親父を通して香坂さんに届けられた。
彼は自分の結婚式の準備も忙しいはずなのに、色々と手はずを整えてくれた。
香坂さんが言っていた人は、実は香坂さんのいとこにあたる人らしい。
名前は、坂本 雪音(さかもと ゆきね)さんという三十六歳の女性で、三年前から『Happy Colors』という名のアイシングクッキー専門店を開いているのだそう。最初はネット販売だけをしていて、軌道に乗って店を出したというから、相当人気があるのだろう。
「実は出産を控えていてさ。即戦力になる人間が欲しいって言ってるんだよ。急に店を休むことになっても対応してくれるような人に来てほしいって」
なんか、最初に言っていたのとちょっと違くない?って思ったりもする。
香坂さん、さてはちょっと担いだわね。
「じゃああたし、その人に一から教えてもらえるわけじゃないんですか」
「どんな仕事も一から丁寧になんて教えてもらえないよ。見て盗むのが職人の必定でしょう。大丈夫、彼女の技術はホントに凄いから。会得できるかどうかは詩子ちゃん次第だよ」
整った顔でにんまり笑われて、はじめてこの人が食えない人間なんだと気付いた。
ただのヘタレではなかったんだな、と親父が香坂さんをなんだかんだ尊敬していることに納得がいった。
まあいいわ。
あたしはこれまで、自分を甘やかし続けてしまった。
これは、その時間を取り返すチャンスだと思えばいい。
「よろしくお願いします」
大きく頭を下げて、気持ちを引き締めた。
これがあたしの生きる道だと、胸を張って言える未来を掴むために。
【Fin.】