ショコラ SideStory

 たどり着いたそこはまだ雪の残る長野の山間地。
目的地である『Happy Colors』は、てっきり繁華街にあると思いこんでいたけど、駅からバスで二十分ほどの小高い土地にある住宅街に紛れるように建つ小さなお店だった。

インターネットのサイトを確認してきたから、店の外観がそのままだったのはいいんだけど、あまりにもその周囲のイメージが違うので本当かどうか看板を確認してしまう。


「あ、来たわね」


突然、店の扉が開いて、あたしはびっくりして「ひゃっ」と声を上げた。


「相本詩子ちゃんね。私が坂本雪音です。よろしく!」


ゆったりとしたチュニックの上から、ぽっこりと膨らんだおなかを抑えて、彼女が笑う。
顎のあたりでそろえられたボブ、眉毛がのぞけるくらいの前髪。昔の田舎の子みたいな髪型なのに、彼女には妙に似合っていた。吐きだす息は白く、頬の血色の良さが余計際立っている。


「は、初めまして。あの」

「噂は宏(ひろ)にいからかねがね! まあ入って」


宏にい?
聞き覚えのない名前に戸惑いつつ、でも彼女にあたしを紹介できるのは一人しかいない。


「はあ。……あの、宏にいって、香坂さんのことですか?」

「そうよ。香坂宏康。もしかして下の名前知らなかった?」

「はあ」


まあ、普段呼ばないからね。そんな殿様みたいな名前だとは思わなかったわ。

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