ショコラ SideStory
彼女は香坂さんの従妹に当たるらしい。年齢は三十六歳。
香坂さんが今四十八歳だったと思うから、一回り違うわけだ。
「私、結構宏にいに懐いていたのよ。宏にいの作るもの、みんな美味しかったし。親の転勤で長野にきて、食べれなくなってから『ああー、いいもの食べてたんだなぁ』って思ってさぁ。じゃあ自分で作ろうって思って。でもやっぱり敵わなくってさぁ。負けてないなって思えるのがスイーツだったわけ。それで始めたの。まずはアイシングクッキーって思っていたらそれが専業になっちゃった」
あっけらかんと笑う。
なんだか勢いのある人だ。でもあたし、このタイプは好きかも知れない。
仕事に熱中している感じも母さんに似てて話しやすい。
「それにしても、履歴書見て美人だなって思っていたけど、本物はもっと美人さんね!」
「いえいえ」
「お世辞じゃないわよ。その容姿はこんな客の少ない店にはちょっともったいないかもなぁ」
お客、少ないんだ?
でも、受注がいっぱいで手が回らないって言ってなかったっけ。
「ほら、荷物も重いでしょ。こっち置いて」
促されてお店に入ると、甘い匂いが私を包んだ。
ああなんか落ち着く。食べ物としてはしょっぱいものが好きなんだけど、甘い匂いとともに育ってきたからか、愛着は感じてしまう。
あたしは、店内をざっと見まわした。店内にはイートスペースは無い。商談用の小さなテーブルと椅子があるだけで、基本は持ち帰りがメインのようだ。