ショコラ SideStory

「もういいから、玲央は仕事行きなよ」

「いいの。今日は休むの。相本さんの引っ越しも手伝わなきゃでしょ」


ね、とウィンクをされて、あたしは反射で頷いた。

……本当にオネエじゃないのかしらと疑ってしまう。
なんか、この有無を言わさない感じと言い、水商売が本気でやれそうですけど。

その後よくよく話を聞くと、妊娠したことを受けて、最初にお店に人を入れたいと言い出したのは玲央さんの方らしい。


「だってさ、ようやく授かった子供だよ? 俺たちなかなか子供出来なくてさ。もう、ほーんとずーっと待ってたわけ。なのにさ、雪音ったらつわりがひどい時だって無理して仕事するし。ちょっとは休んでよって言っても聞いてくれないし。こっちは気が気じゃないっていうか」


なんだか夫の愚痴を聞かされているような気分になる。
このふたりは逆転カップルってやつなんだな。

ふたりの話をまとめると、雪音さんは今までずっと一人でやってきたのだそう。受注が多い時は確かに大変だけれど、どうしても無理な受注は断ればいいし、逆に仕事がない時は本気で暇なので、人を雇うほどでもないと思っていたのだそうだ。


「さすがに出産のときは受注ストップしなきゃいけないかなって思っていたのよ。だってさ、都合よく一年以内の短期間だけ働いてくれて、アイシングの技術がある人なんてそうそういるわけないじゃない?」

「はあ」

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