ショコラ SideStory
「そんなときに、宏にいからアイシングクッキーの依頼が来て、断りがてら愚痴ったら、一年くらいなら働いてくれる人見つけられるかもって聞いたの」
それがあたしってことか。
「そのかわり、私の持ってる技術は惜しみなく教えてほしいって」
なるほど、なんとなく繋がった。
ちょっと不思議だったのよね。なんで一年とかいう短期間だったのか。
あたしが経営者なら、そんなすぐ辞める人間を使おうなんて思わないもの。
おそらく、雪音さんにとってはあたしが東京の人間だっていうのも都合がいいのだろう。
技術を教えたところで、この辺りで起業するわけじゃないならライバルにはなりえないし、ましてあたしが戻るところは喫茶店だ。通販で販売するわけでもない。
あけすけに内情を明かしてくれたことで、あたしも気が楽になってきた。
ここははっきりとできるできないは把握してもらって、きちんと教えてもらおう。
「あたし、不器用なんです。アイデアは色々思いつくんですけど、それを実現させるだけの技術がなくて」
「そうなの? でも宏にいの結婚式のクッキー、見せてもらったけど上手だったじゃない」
「できるレベルのデザインに抑えているんです。本当は、こういうのを作りたいんですけど」
書きためたアイデアノートを見せる。細かいレース模様とか、イメージだけして実際は作れなかったものが実はたくさんある。