ショコラ SideStory
「こんな風に?」
彼の長い指が私の指先をなぞりながら持ち上げる。
そして手の甲に落とされるキス。
騎士の誓いのような格好に、悪戯な笑顔。
途端に気分が浮上する。
そう。そんな風に私を見て?
「そうよ。少なくとも定休日の夜に店で話すだけってのは違うんじゃない?」
「違いない。片付けてくる。一緒に帰ろう」
「じゃあ飲み切るわ」
残りのコーヒーを一気に飲んで、一緒にカップを洗う。
戸締りをして電気の消えた『ショコラ』は少し寂しそうにも見えるけど。
悪いわね。
今晩の隆二くんは私のものよ。
「康子さん、待てよ」
先を行く私を追いかけてくる隆二くんを、振り仰いで極上の笑みを披露する。
さあ、今日はどんな夜を過ごそうか。
【fin.】