ショコラ SideStory
その日、『EAST WEST』編集部にやってきたのは、昔なじみのカメラマンである福ちゃんこと福井良成だった。
「よう、康子ちゃん。旦那とヨリ戻したんだって?」
迎え撃つ私は苦虫を噛み潰したような顔。ここで甘い顔したらつけあがるもの。
「何よ。くだらない雑談しに来たんなら帰りなさいよ」
「くだらなくないだろ。ようやく素直になったんだ?」
ははは、と笑いながらデスクに軽く体重を預ける。
他の社員がそんなことしたらすぐ叱責するところだけど、これは福ちゃんの昔からの癖だ。言っても直らないことに労力を割くのは無駄というものだろう。
「少なくともその話は今じゃなくて良いわ。何しに来たの?」
「いや? 特に用はないんだけどね。『山岳倶楽部』に顔出してきたついで」
「……福ちゃん最近なんで風景写真ばっかり撮ってるの?」
『山岳倶楽部』はわが社のマイナー山雑誌だ。山岳初心者から上級者まで幅広い山岳ファンをターゲットにしていて、欠かせないのが高所から撮る絶景写真。福ちゃんは最近この仕事をしているらしい。