ショコラ SideStory

「なんなの? 見せてよ」

「駄目だ。男同士の約束だ」

「何が男同士よ。昔ちょっと話しただけの男と私とどっちが大事なの!」


間髪いれずに封筒をひったくると、中から出てきたのは先日の私のしまらない顔。


「イヤー! なによこれ。こんな変な顔捨てて!」

「駄目だって。こんな康子さん貴重じゃん」

「貴重じゃなくて恥よ!」


一気に破ろうとしたけど、先に隆二くんに腕を掴まれる。
普段より手加減がないからちょっと痛い。

しぶしぶ写真を渡すとようやく力が緩んだ。


「何でこれが男同士の約束なのよ」

「康子さんは知らなくてもいいの」


今日の背中は頑なだ。
こうなったら最後、隆二くんはてこでも口を割らない。
私が我を張れば以前みたいな別れが来る。

流石に学習したから、ここで引き下がろう。


「分かったわよ。こっち貰うわよ」


隆二くんの手元のケーキに指を突っ込んでクリームを絡めとる。


「あ、今作ってるところなのに」


嘆く隆二くんの手元から、ちらりと見えた写真の裏の文言。


『今度こそ約束守れよ』


福ちゃんと隆二くんの間にある約束を、私が教えてもらえる日は来るのだろうか。






【fin.】
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