ショコラ SideStory
「この間」
「うん」
「アイツ来ただろ。ほら福なんとかってヤツ」
「ああ、福ちゃん?」
「それでちょっと思い出してさ」
何をよ、問いかけるような視線を投げると、隆二くんは苦笑する。
「……夢見させてあげるようなこと、何にもしてあげなかったなって」
「隆二くん」
「付き合ってる間も、俺はまだまだ見習いで休みの日は練習ばかりしてたし。結婚は出来ちゃった婚だし」
石垣に寄りかかりながら、隆二くんは私を見下ろす。
注がれる視線は少し困っているようでもあり、真剣でもあり。
「不満なんて別になかったわよ?」
「うん。でも約束だったから」
「福ちゃんとのやつね? もう! いい加減秘密にするのは辞めなさい」
「世界で一番シアワセな女にしてやってって言われたんだよ。案外夢見がちな女だからって」
「はぁ?」
福ちゃんが言ったの?
そんなことを?