ショコラ SideStory
その笑顔で十分だった。
今までの男たちと違う。
見た目で彼女に惚れてんじゃない。
こいつ、彼女に溺れてやがる。
今まで誰にも見せたことの無かった、彼女の写真を胸元からだした。
ほんの一瞬だけ見せる、『愛して欲しい』のまなざし。
それを捕らえた一枚を。
「……やる」
「え?」
「世界で一番幸せにしてやって。いつまでも愛されたいって……夢見てるような女だから」
弱小動物は神妙な顔になって、俺をじっと見つめた。
そんな目で見るな。
俺は別に彼女の事はなんとも思ってない。
恋愛感情は超越したところで好きなだけだ。
「約束だぞ、じゃ」
「あの、……これ、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた男に、これ以上見られるのが嫌で走り出した。
首から下げたカメラが、振動で何度も胸に当たって痛い。
畜生、痣になるかも知れない。
――その痣が心に刻まれていたなんて考えたくも無かった。
俺はカメラマン。
被写体の隠れた一瞬をフィルムに写し出す。
俺はこの時ようやく気づいた。
俺がいくら他人の一瞬の表情に気づくことが出来ても、自分の一瞬を捉えることは出来ないんだってことに。