彼女の特権
彼女の特権
その手に最初に出会ったのは、バーのカウンター越しだった。
今、その手は私と指を絡めている。
車の助手席に座った私の右手と、運転席に座る彼の左手。
「そろそろ――行かないと」
本当はまだ降りたくないくせに、そう言ってみせた。
「本当に?」
彼は絡めた指をゆっくりと滑らせる。指と指の間をなぞられて、背中がぞくりとした。
「本当に。私は明日も仕事。あなたも明日は仕事でしょ?」
「午後からだけどね」
知ってる。
午後から店に出て、仕入れを確認して。足りない物があれば買い出しに行って、開店の準備。
彼の店は駅から近いところにあるから、いつ行ってもお店はお客さんでいっぱいだ。ほとんどは彼目当ての女性。
「まだ、それほど遅くないよ。着替えだけ持ってきて、俺の部屋に泊まるってのはどう?」
「……」
それは魅力的な誘いだった。彼の指は、今度は手の甲を這っている。
つかず、離れず、絶妙の感覚で。
「どう?」
重ねて問われ、私は視線を落とす。
絡んでいた指がほどかれた。今度は両手で大切に包み込まれる。
今、その手は私と指を絡めている。
車の助手席に座った私の右手と、運転席に座る彼の左手。
「そろそろ――行かないと」
本当はまだ降りたくないくせに、そう言ってみせた。
「本当に?」
彼は絡めた指をゆっくりと滑らせる。指と指の間をなぞられて、背中がぞくりとした。
「本当に。私は明日も仕事。あなたも明日は仕事でしょ?」
「午後からだけどね」
知ってる。
午後から店に出て、仕入れを確認して。足りない物があれば買い出しに行って、開店の準備。
彼の店は駅から近いところにあるから、いつ行ってもお店はお客さんでいっぱいだ。ほとんどは彼目当ての女性。
「まだ、それほど遅くないよ。着替えだけ持ってきて、俺の部屋に泊まるってのはどう?」
「……」
それは魅力的な誘いだった。彼の指は、今度は手の甲を這っている。
つかず、離れず、絶妙の感覚で。
「どう?」
重ねて問われ、私は視線を落とす。
絡んでいた指がほどかれた。今度は両手で大切に包み込まれる。
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