だってキミが好きだった









フワリ。風が吹く。



気持ち良い風なのに、心が癒されるような風なのに。




急に聞こえた彼の低い声のせいで心が癒されることは無くなった。







「ち、はや…………くん」







上に向けていた顔をバッと前に向けると、そこには相変わらず無表情な彼。




あ、……っぶない。



呼び捨てにするところだった。


彼は誰にも呼び捨てで呼ばせてないんだし、私が呼んだらいけない。



ドクドクと早く動く心臓を片手で押さえて、私は目の前の彼に焦点を合わせる。







「……アンタ早い」


「……来るのが、ってこと?」


「……そ」


「……まぁ、癖みたいなものだよ」


「へぇ、癖」


「うん。千早くんこそ早いね」


「……なんとなく、10分前に来たかったから」


「10分前……」







手に持っている暗くなったケータイの画面を見る。



カチリとボタンを押せば明るくなる画面。――ほんとだ、約束から10分前。




さっき思ってたことが現実になっちゃった。




偶然なのか、それとも……彼の感覚に残っていたのか。





それは分かんないけど……。






「……」






改めて見ると、なんか……。









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