だってキミが好きだった
……彼とデート、か。
それがたとえ仮だとしても……。
久しぶりだ。
「まぁ彼は覚えて無いけど」
「なに、なんか言った」
「言ってないよ」
「……そ」
横を向けば彼は少し不満そうにジーっと私を見ていて。
少し焦ってしまった私は、「本当に言ってないよ」と精一杯説明した。
でも彼はまだ不満そうだ。
……ジーッと見つめなくはなったけど。
この角度も、なんだか久しぶりだな。
あの時はこれが普通だったんだよね。
「……過去に浸っちゃダメだ。今は今だよね」
ボソリと呟いた言葉は強い風に消えていく。
今度は彼に聞こえていなかったみたいだ。
「……今は今。瑞希の彼氏がどんな人か……見ないとね」
だって心配だし。
彼の隣を歩きながら私はぼんやりと考える。
……ん?
“隣を歩きながら”って。
足元を見て、私は目を丸くする。
歩調、合わせてくれてたんだ。
足元から彼に視線を移してみれば、その顔はもう不満そうにはしていない。
――クスリ。
そんな彼を見て、気付かれないように小さく笑った。
ちょっとは気、許してくれてるのかな。
彼の小さな変化が、
何故か心の底から嬉しかった。