だってキミが好きだった
ふぅ、と息を吐き銀色の取っ手をゆっくり掴む。
ひんやりとしたこの感触は他でも感じたことはあるのに、何故だか懐かしい感じがする。
――カラン、カラン
取っ手を引けば、懐かしい鈴の音とフワリと香る独特の香りが私を迎えた。
「久しぶりだね、菫ちゃん」
あぁ、全てが懐かしい。
「お久しぶりです。……マスター」
懐かしい、顔だ。
「……元気だったかい?」
「……はい」
「そうかい。……ならいいんだ」
「……マスターもお変わりないですね」
「ははっ、嘘を吐かなくてもいいんだよ。老けただろう?」
「……まぁ、少し」
「ははっキミは相変わらずだ」
優しく笑う彼は真っ白の布で拭いていたお皿をコトン、と置き、そしてその布で手を少し拭き、布も置く。
変わってない。
その優しい声も、その優しい目も。
確かに老けたのは……老けたけど。
でもほんの少しだけだ。
ほんの少し、やつれた感じになっただけだから、そう見えるんだ。
「千歳くんから話は聞いてるよ。……千早くんのことも」