だってキミが好きだった
……昔の千歳さん、か。
そういえば千歳さんと会ったのは丁度千歳さんが“荒れてた”時だ。
今でも覚えてる。
何も映さなかった瞳。
血が付いていた手。
無表情な顔。
今とは大違いだった。
「俺が荒れてたのは日常が楽しくなかったから。そんな小さな理由だ。だけど千早は……」
険しくなる顔。
あぁ、千歳さんは知っているのか。
彼が暴れている理由を。
「千早は記憶を思い出したがってる」
小さい、だけどしっかりと聞こえた。
記憶……それは前に彼が言っていた“思い出したい人がいる”ってやつ、かな。
「思い出したい人がいる、ってことは聞きました」
「そうだったのか。それ以外は?」
「……いえ、何も」
「……そうか」
険しかった顔がもっと険しくなる。
千歳さんは何を考えこんでいるんだろうか。
話しかけたら迷惑かな。どうなんだろう。
聞きたいことがあるんだけどな。
「……千歳さん」
戸惑いながら名前を呼べば、千歳さんは「ん?」と言って私を見る。
「彼が思い出したいのは“思い出したい人”だけですか?……それとも」
そこで切り、俯いて拳を強く握れば皮膚に爪が食い込んでいく痛みを感じた。
「過去の記憶全て、ですか?」
――できればそれは、違っていて欲しい。