だってキミが好きだった









ドクン、ドクン。




握る手には汗が滲み、心臓の音は速くなる。






千歳さんはユラリ、と瞳を揺らしながら私を見るだけでその形の良い唇を開きはしない。






この沈黙、辛いな。



締め付けられるような気持ちになりながらただジッと千歳さんの返事を待つ。











「……全部、だ」











そしてその言葉は願っていたこととは逆で、




ズシン、と私を突き落とす。










「っ、」






ぜ、んぶ。





嘘、でしょう?






「だ、めです……全部なんて……、」


「菫」


「だめです、そんなことしたら彼はっ、」






記憶を思い出してしまったらっ、







「彼はまた……!!」







傷つくことに、なるじゃないか――。







「菫」







聞け。


そう言うかのように千歳さんは私の肩に手を置いて、取り乱す私を宥める。







「菫、千早は分かってんだよ。自分が過去を思い出して傷付くかもしれない、ってな。覚悟してアイツは過去を思い出そうとしてる」







千歳さんのその強い瞳に私の心はズキズキと痛んだ。





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