だってキミが好きだった
あーあ、私も瑞希になれたらなぁー。
「……暑苦しいよー、離れろー!!」
「はいはい」
スルリと腕を解くと、「あー暑かったー」なんて手で顔を仰ぎながら瑞希は言う。
今さら暑いの。
可笑しいでしょ絶対。元から暑かったよ。
内心そう思ってる私に対し、瑞希は視線を教室の中へと滑らせる。
女子の群れの数少ない隙間から見える教室。
教室も女子でいっぱいだ。
「……朝から凄いねー、人気だわ千早くん」
「あれ?瑞希“千早くん”って呼んでたっけ?」
「ん?あー昨日ね。景山くん、って呼んだらさー、“名前にくん付けでいい”って言われちゃってねー」
片手を頭の後ろに持っていき、嬉しそうに語る瑞希。
さしずめ「やったね!」とでも思ってるんだろうな。
「これって進歩?」
「さぁね」
「もー、ひどいね菫」
「そうかな?ごめん」
「まぁいいけどねー」
いいんだ。
まぁ瑞希だからね。
許しちゃうか。気分屋だし。
「んでも実際。私別に千早くんのこと好きじゃないんだよね」
「え、そうなの?」
「うん」
「瑞希イケメン好きなのに?」
「うん」
……明日は雨だきっと。傘の用意しておこう。