だってキミが好きだった
「言いたいこと、あるんだね?」
うんともすんとも彼は言わないけど。
それでも。
その手を見ただけで分かる。
指を少し折り曲げては伸ばし。
また折り曲げては伸ばし。
その繰り返し。
それは、彼の癖。
“言いたいことがあるけど、どう切り出したらいいか分からない”
彼のその癖は、そう思ってる時にでる。
普通の人ならあまり気付かない癖。
普通の人なら知らない癖。
私が彼の元カノだから、知ってることだ。
「……」
周りの女子達が「どうしたの?」と言わんばかりに彼に群がっていく。
そんな中、彼はただ無言で私を見つめ、そして、
「あ、千早くん!?」
「千早くん、どこ行くの!?」
視線を逸らして、私の横を通り過ぎて行った。
……付き合ってた時の彼なら、言ってただろうな。
でも、何も言わずに通り過ぎて行った。
彼と私が他人ってゆう証拠だ。
良かったじゃないか。
彼が私に関わらないのなら、本望だ。
「……菫?」
別に、悲しくなんかない。
「……いこっか、瑞希」
だからきっと。
ズキリと痛んでしまった胸は、気のせいだ。