だってキミが好きだった
心配そうな声。
その声のする方を向けば、眉をハの字に下げる親友の姿。
「……うん。大丈夫。心配しないで?」
心配させてしまった。
ダメだな、私。
瑞希を安心させる様に笑顔を作り、ガラリ、と扉を開ける。
瑞希から扉の先に顔を向ければ、そこには教室とは違う風景。
真正面を見ればガラス窓。
下を向けばタイルの床。
固まって話したりしてる人達。
「千早くんがねー」
「聞いたー?千早くんがさぁ、」
「女子は口を開けば“千早くん”だな」
「当たり前じゃなーい。あんたと違ってイケメンなんだから!」
「そうそう」
「うっせぇな。知ってるし」
「へー。まぁそんなのどうでもよくてー」
「ひど」
「あはは、それで?」
「うん、あのねー」
すこし先で固まっている集団の会話。
私はゆっくりとその集団がいる方向を歩く。
「実はさ、千早くんがね……」
何故か耳に入ってくるその会話。
そして。
何故か速くなる歩調。
「千早くんがね、図書室にいたの!」
――ペ タ ン
集団の横を通り過ぎる時、鳴った私の足音。
普段は鳴らないのに。
動揺、したりしたかな。
速くなっていた歩調が、元に戻る。
ゆっくりと息を吸い、フウ、と吐く。
もう、足音なんてしない。
「……図書室」
ボソリと呟いたその言葉は、すれ違う人には聞こえていない。
脳裏に映る映像。
あの時やった、彼の癖が頭から離れない。
「図書室に?話しかけなかったの?」
「だって寝てたんだもーん」
「うそ、寝顔見たの!?」
「へへーん、まぁねー」
「うわ、俺見られたら終わるわ」
「アンタの見る奴なんていないに決まってんでしょ」
「そーそー」
あはは、と笑いあうさっきの集団の声。
そして、ソレと同時に頭の中でこだまする“他人”という言葉。
そうだよ。
私達は他人。
でも。
他人じゃなかった時に、知ってしまったものがある。