だってキミが好きだった
「…じゃあ、私行くね」
今度こそ。
最後にそう付け加えてまた足を動かす。
……だけど。
「……待て」
またキミは、私を止める。
私も私で。
またその声に足を止めてしまった。
今度は一体何なんだろう。
そう思うけど、
後ろを振り向くことはしない。
「……」
……何なの。
一言もしゃべらない。
「……別に、ここにいてもいい」
「……え?」
クルリ。
その言葉は予想もしてなかったことで。
つい、後ろを振り向いてしまった。
片足を曲げて片手をソファーにつけ、座る彼。
その顔は私の方を向いていない。
「……」
「ここにいてもいい。……アンタが嫌ならいいけど」
少しだけ声が低い。
彼は本気で、言ってる。
……嘘、でしょ。
なんで急に……?
さっきあれだけ、私を睨んでたのに。
呆然と彼を見ていると、視線があるものを捕らえた。
彼の、震えている手を。
「……そっか」
その手を見ただけで分かる。
彼が“ここにいてもいい”と言った理由が。
「わかった」
さっき近づかないって決めたのに。
「じゃあ、ここにいるね」
結局は、近づいてしまう。
だけど、今のは私が望んだことじゃない。
どんな理由があるにせよ、彼が望んだことだ。