だってキミが好きだった







立ち止まり、額を伝う汗も拭かずただその場に佇む。



一人だけ立っているその男は私には気付いていないのか。



その場を動かず顔だけを上に向けた。



ポタリポタリと男の拳からは“何か”が落ち、地面にシミを作る。



その“何か”は、きっと……。



それを考えゴクリと唾を飲み込んだ。




サラリと男の前髪が横に流れ、男の顔がさっきよりもハッキリと分かる。



悲しげな瞳で月を眺める男は紛れも無く彼。



彼から視線を逸らし、再度倒れている不良たちを見てみる。



正直驚きだ。


知らない。


こんな彼は知らない。







私の知っている“景山 千早”はこんなことしない。








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