だってキミが好きだった
私は彼の手首から手を離し、自分の膝に両手を当てる。
まだ息はあがってるけど、さっきよりはマシだ。
この無言の空間は私から崩そう。
「……喧嘩、するんだ」
誰かを殴る彼は見たことあったけど、喧嘩をする彼は見たことはない。
だからこそ驚いた。
「……まぁ」
一言だけ、か。
相変わらずその声は冷たい。
「……そ、っか」
深くは踏み込まない。
何で喧嘩してるの?とか。
どうしてそんなに冷たい目をしてるの?とか。
聞けないし、聞かない。
知りたいことではあるけど。
「……朝」
「……」
「私に言いたいこと、あったんじゃないの?」
体勢を整え、彼へと体を向ける。
朝の彼の癖が脳裏を掠めた。