だってキミが好きだった
彼は私を見たまま黙る。
その口を動かさない。
……あ。他人にそんなこと言うわけない、か。
そうだよね。
そう考えただけでズキリと胸が痛んでしまう。
痛みたくなんてないのに。
そう思った、時だった。
「俺はどうして生きてるのか分かんなかったんだよ」
苦しそうで、それでいて悲しそうでな声。
そんな声で彼の口から発せられたその言葉。
「……だけど」
思わずゴクリ、と唾を飲み込む。
伏し目がちになったその目。
フッと儚く笑う彼は、私の目には弱々しく映る。
「思い出したい人がいる」
それは私に驚きを与える言葉。
だって彼からしたら私は他人。
その他人にわざわざ思い出したい人がいる、なんて。
自ら“記憶が無い”って言ってるようなものだ。
「ソイツを思い出すことが今の俺の役目。生きてる意味。……そう思ってんだ」
彼の、役目。
彼の、意味。
そうか。
彼もお母さんと同じ考えを持ってたのか。
「俺は一人。だから一人でその役目を果たす。……月と似てるだろ」
伏し目がちだった目を上げる。
片方の目から伺える彼の感情は苦しみ、悲しみ。