魔法日記
ちょこんと男の子の隣に座る。
『こんにちは。何、してるの?』
「・・・誰」
少年はなぜか警戒していた。
拒絶に近い表情を私に向ける。
『私、ユイ。貴方は?』
「・・・アンリ。アンリ・ユグドラシル。」
『アンリかぁ。で、何してるの?』
聞いてみると、アンリは手に持っていたノートの様なものをぎゅっと握った。
私が持っているようなノートよりもふた周りくらい大きいけど。
「絵を、描いてるんだ」
聞こえるか聞こえないか小さな声でぼそっと言った。
見せてもらうと、親子の白鳥ーーさっき私がサンドイッチをあげた白鳥たちーーが描かれていた。
『うわ!すっごく上手なんだね!凄いよ!私、絵なんて描けないもん』
素直な感想を言ってみたけど、アンリはうつむいて上手くなんかない、と呟いた。
『どーして?』
実際、とっても上手なのに、アンリは認めていないように見える。
「先生は、ダメだって言うんだ。もっと頑張れって。僕は、頑張っているのに・・・」
『・・・。ね、私、魔法使えるの!魔法、かけてあげよっか?』
「え?」
アンリはいきなりのことに思わずぽかんと面白い顔をしていた。
『ちゃんと見ててね。ーー花よ、咲き誇れ。虹よ、架かれ』
つぼみだった花は咲き、触れそうなほどすぐ近くに七色の虹が架かる。
「・・・!」
『ね?綺麗でしょ?』
笑いかけるとアンリは口をもごもごさせて、「・・・あ、」と言った。
「あり、がとう」
優しい微笑みと一緒に、私にとって一番嬉しい言葉をくれた。
ずっと無表情だったから少しでも笑ってほしかったから、私も嬉しかった。
『どういたしましてっ!』