探し物



翌日朝、ぼくの席のほぼ対角に、空っぽの真新しい机と椅子が揃っていた。






こんな状況、もう先生が説明しなくたって生徒はみんな何が起こるかわかってる。




「転校生か?」

「男女どっちだろーね!」





クラスのみんなは早速新しい仲間の話に花を咲かせていた。





ぼくはというと、さっきから気分が悪くて仕方ない。





吐き気、というよりは頭が重い。


昨日からなんだか変だ。

本格的に病気かもしれない。





去年の春に入学してから今日のこの五月七日まで、遅刻・早退・欠席をしたためしがなかったから、ぼくはどうしても記録を終わりにしたくなくて保健室へ行くのを我慢した。




行ったら最期、母さんが迎えに来て早退させられるのが落ちだ。







このクラスの権力者的存在の工藤 進也(クドウ シンヤ)が、気分が悪いと教室の真ん中で騒ぎ立てている。



ぼくもあんなに主張できたら良いんだけど……。





ぼくは横目で工藤を羨ましそうに見つめた。






ぼくが目立とうとしないのは、根暗だからとか、そういうのではない。(というよりそうであってほしい)ヘタに目立ったりすると、工藤の“ターゲット”になるからだ。







工藤は父親がこの地域の市議会議員かなんからしくて、お金持ちの息子といったところだ。




その権力を利用して、この中学を支配している。


支配している気は本人には無いようだけど、全身から支配者のオーラがみなぎっているのは確かだ。




短気で自尊心が大きく、弱者をいたぶることを好むその性格はもはや最悪。





しかも、学校側は市議会議員の工藤氏に何かと世話になっているらしく、どんなことも工藤に自由にさせているのが現状だ。






だから、まるで漫画の世界のガキ大将みたいに、敵に回されたら厄介なクラスメイトだ。






それにケンカの方もかなり強くて、近隣の葉山高校野球部を総体に出場できなくなるくらいにボコボコにしたという噂を聞いたことがある。





これはすでに事実というより、伝説化していると言っても過言ではない。
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