探し物
「黒木 涼(クロキ リョウ)です」
それだけ言うと、少年はズカズカと机の間の通路を行き、一番後ろの席に物音を立てて着席した。
工藤が面白くなさそうな表情で黒木くんを見つめる。
誰も、予想していた人物像と彼が一致せず、どう反応したら良いか戸惑っていた。
相変わらずの平原先生だけは平然としていて、名前だけで自己紹介を済ませてしまった彼の代わりに紹介を始めた。
「黒木は沖縄で部活には入っていなかったが趣味のバスケは超一流だったから、体育は見習うといいぞ。勉強の方も得意だからわからないことがあったらいろいろ聞くように」
そう言われても…………。
見ているだけでも怖いのに、どうやって話しかけろと言うのだろうか。
というか、なんだろう、この違和感。
平原先生の紹介の仕方が、まるで前から黒木くんのことを知っていたかのような……。
そんなことを感じながら、ぼくはずっと黒木くんを見つめていた。
目が合うのが怖いのに、どうしても彼を見てしまう。
何かに惹きつけられる。
そうこうしていたら、彼と目が合ってしまった。
一度見据えられると、獣に捕らえられたようで視線をそらせなかった。
怖い。
心の奥底まで覗かれるようで早く逃げたいのに、どうがんばっても視線をそらせなかった。
どのくらい見つめ合っていただろうか。
気がついたらチャイムが鳴っていて、いつもの空気が流れていた。
一日の、始まりだ。