探し物
今日は一日、黒木くんは人気者だった。
といっても、黒木くん本人は目立つ気も仲良くする気もなさそうで、うっとうしそうな顔をしていた。
みんなが黒木くんに興味を持って、彼の机の周りに集っているという感じだ。
ぼくは、自分の机の周りにあんなに人が集まるような経験なんて一度も無かった。
別にはぶかれているとかそういうわけでもないけれど、クラスで目立つことも特に無いし、工藤以外みんなそんなもんだ。
地味に生活して、危険なことを避け続ける。
それが、良い子の集まりだとこの中学が呼ばれる根源かもしれない。
「沖縄弁しゃべってみて!」
「バスケ、俺もやってんだ」
「黒木くん、わかんないことあったらきいてね」
「ペットとか飼ってるの?」
尋問のようだ。
ぼくはそんな光景を見るとつくづく黒木くんに同情したくなる。
黒木くんは質問攻めにも耐え(?)、周りを睨みまわしながら着席している。
もちろん、どの質問にも答えない。
ぼくからすると、あんなに怖い不良に話しかけられるみんなを尊敬したいと思う。
ぼくはというと、親友の秀一と勉強の話をしていた。
秀一は山田 秀一(ヤマダ シュウイチ)といって、ぼくの幼馴染かつ大親友だ。
秀一はぼくより遥かに頭が良くて、こうして勉強を教えてもらったりしている。
小学生の頃はとても明るくて面白くてよくしゃべる、クラスのスター的存在だった。
何事にも熱心で、勉強家で、ムードメーカーでしっかり者。
まさに憧れだった。
それなのに。
中学に進学してからその性格は激変してしまった。
こうしてぼくと会話しているときは普通でも、クラス内では人と交わりを持たず、意見も言わず、放課後の遊びにも一切参加しなくなった。
気がつくと休み時間は読書にふけり、常に独りになっていた。
何があったんだろう?
社交的なあの秀一はどこへいったんだろう?
ぼくにもわからない。
気がついたら、そうなっていた。