花蓮【完結】
何にも思い浮かばなくて。
頭の中真っ白で。






そんな中。
あたしの中で流れてたのは。





哲のあのへったくそな鼻歌だった。







翌日。
母親が病院に来ていた。
珍しいこともあるんだな。




ちらりと見るが、母親はこちらを見ようともしていなかった。
それにため息がついて出る。




「井上さん」


「はい」


「お話があるのでいいでしょうか」


「はい」




母親は医師に連れられて病室を出て行った。

それを何も言わず見送った後、あたしは呟いた。


「…別にあたしは…花蓮とともに散れれば…いいんだよな」






後。
少し。
後少しなのに。






あたしが花蓮を引退するのは後、少し。






…それまで生きられればいいんだ。






じゃあ、迷う必要はないんじゃないか?





あたしは横に母親が持ってきたであろう衣類とバイクの鍵を持って、部屋を飛び出した。
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