嘘吐きな恋人
そんなこと、ないと分かっているのにだ。
でもそうやってそうできるように持っていこうとしているだけ、あたしはまだしろと居たいと思ってしまっているということで。
不承不承分かったごめんなさいと了承したしろに、「その間に反省してよね、あんたもいい加減」と言い捨てて教室を出ようとした瞬間、「千沙」としろがあたしを呼んだ。
振り向きたくなくて聞こえなかったふりをしようと思ったけど、そんなあたしの躊躇なんて一切無視してしろの声が響く。
いつもの、声。
声だけはどこまでも真摯にしろは言う。
でも、千沙。俺が一番好きなのは、特別なのは千沙だけなんだよ、と。
きりっと締め付けられたように胃が痛んだ。
しろの言う特別が一体なんなんだろう。
付き合いたての頃はこっぱずかしいなと思いながらも素直に嬉しかったそれが、今は一番聞きたくない単語になっていた。