嘘吐きな恋人
「早く行かないと練習始まんよ、4番」

「もういいよ、始まってる気ぃするし、今急いでも急がなくてもどうせグランド5周だわ」


そんな会話を交わしながら、だらだら下駄箱までの距離を一緒に歩く。
昇降口でグラウンドに向かう木原と別れようとしたところで、木原がぼそっと呟いた。


「俺さーさっき千沙追いかける前、城井にめっちゃ睨まれたんだけど。自分は女子に囲まれてるくせに。すげぇよな、あいつの独占欲っつうか執着心っつうか」

「それは違うと思うけど。勘違いじゃない? それかあんたのこと嫌いなんじゃないの。あんたもしろ嫌いだし、相性悪いよね」

「……まぁ、いいけどさ、せっかく休めんだし、ゆっくりしとけよな」


曖昧に言葉を濁した木原が、グラウンドに向かって走っていく。

その背中をなんとなく見送ってしまってから、あたしはようやく小さくため息を吐き出した。


校門を出たところで、人待ち風情に塀に寄りかかっていた三浦さんとすれ違った。
あたしとは全然違う、きれいに整った唇が小ばかにしたように微かに吊り上る。

絡みかけた視線を外したのはあたしだった。


――嫌だ。


嫌だな、なんでこうなってしまっているんだろう。
あのころは、しろと初めて会ったころは、こんなじゃなかったはずなのに。



一緒にいるのが嫌だなんて、苦しいだなんて。
好きでいることが辛いなんて、ちっとも思っていなかったのに。


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