嘘吐きな恋人


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「おー、お帰り、千沙」

地味に鈍痛を訴える胃を気にしながら帰宅した途端、想像していなかった声に出迎えられた。

「あれお兄ちゃん、帰ってきてたの」

大学に進学したお兄ちゃんは、去年の春から一人暮らしを始めている。

この間、前期のテストが終わるまで帰らないって言ってた気がするのになと見上げる。
と、あたしとはあまり似ていないかっこいいと評される顔をお兄ちゃんが緩ませた。


「確かに元気なさそうな顔になってんなぁ。姉ちゃん、心配してたぞ」

「それでわざわざ戻ってきてくれたわけ?」


心配してくれてるんだろうとは思うけど、苛々する。木原にしてもお兄ちゃんにしても。

そんな風に思われるほど、ダメージなんて受けてない、つもりなのに。


靴を脱いでそのまますり抜けようとしたはずだったのに、まぁまぁまぁと宥めるように腕を取られて、リビングに連行された。

「あの人も心配してるんだって」と困ったように笑うお兄ちゃんに、「放っといてよ」とはさすがに言えなかった。

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